10月のテーマ「砕けマシンガンモールス」からも明らかなように、夙川スカウトでは、活動に、モールスを積極的に組み入れています。これは夙川スカウトに限らず、西宮地区全体でそうしていることで、耐寒訓練のポイント課題にもなっています。
さて、モールスは、以前の進級課目では、1級の必修課目に入っていました。ところが、現在は、特修章通信章の選択肢のひとつとして残っているだけです。したがって、全国的には、モールスを隊プログラムに取り入れない隊が増えているのではないかと思います。
確かに、モールスは、手旗に比べて難しいと思います。手旗は原画が頭に入れば、字形そのものを体と旗で表現するのですから、とっつきやすいでしょう。一方、モールスの場合、単調な「トン」と「ツー」の組み合わせからなる50音すべて憶えて、ソラで送受信できるようになるのは相当な訓練が必要です。中学生でも、よほど好きでなければ、そのレベルに達するまで習熟するスカウトはいません。
しかし、邪道かも知れませんが、モールスも、イ:伊藤、ロ:路上歩行、... という語呂合わせの憶え方があります。これも、旧陸軍式、旧海軍式等さまざまなものがあるようですが、特にスカウトが考えた、隊・班伝統の憶え方もあって(夙川スカウトのある班では、ル:ルート修正す、シ:修正すルート(陸軍式なら「周到な注意」))、工夫次第で単調な音の羅列ではなくなります。また、受信の方も、モールス早見表というものがありますから、音さえ拾って、山形記号さえ書ければ、解読は簡単にできます。総合無線通信士などの資格(モールスの必要な資格は7つある)を取得するには音から直接文字が浮かばなければ追いつきませんが(1分間数10字)、ゲームとしてモールスを使うにはこれで十分でしょう。
ところで、受信での「音を拾う」が、このモールスのミソのひとつです。モールスは暗記の訓練ではなくて、音に関する感覚訓練なのです。周囲の雑音から、一定の音だけを集中して聞く。これは実社会でも相当役に立つ技能です。また、光のモールスもありますから、目の感覚も養えますし、そもそも耳や目を鍛えるということより、そこから入る感覚に集中するという訓練になります。これは手旗も同じ。また、拾えなかった音があった場合、文脈から抜けている文字を類推することが必要ですが、推理力や文脈を理解する訓練にもなります。さらに、送信をすれば、文章をできるだけ簡潔に要領よくまとめる訓練にもなります。
モールスの送受信は、やはり、最高学年(1級スカウト)ぐらいにならなければ、覚束ないものです。しかし、新入隊員であっても、分からないなりに、注意して聞いたり、見ていたりすることは十分するわけで、いつかは僕もあの音を拾ってみたい、と思うようになります。それこそ「進歩制度」です。実際、今年の夏季長期野営で光モールスをしたときの、各年代ごとの日記を読むと、憧れから、上達への望み、自信(楽しみ)、につながっていく過程がよく分かります。
このように、モールスを使ったゲームが、スカウトに与える教育的効果は甚大です。しかも、「じっと聞け」「じっと見ろ」と言わずに、遊びの中で、そういう訓練(教育)ができるのですから、これほど良い素材はありません。しかも、道具は、笛・懐中電灯・旗(単旗モールス)だけですから、いつでもどこでもできます。
モールスは、もはや古い、ということが良く言われます。メールやインターネット、無線や衛星通信といったIT時代に、いつまでもモールスなんて、というところでしょうが、それはちょっと待ってください (古い、という議論では、板に分度器の「仰角簡易測量器」なんてどうなるのでしょう)。
モールスは、「トン」と「ツー」の2つ(正確には文字と文字の間があるので3つ)のモノの組み合わせだけでできています。これは、コンピュータの2進法に通じるところで、情報を2つのビット(長と短、「ある」と「ない」、1と0)に置き換えるということは、情報通信の基礎です。ほとんど総ての情報通信機器が、実は内部では、「トン」と「ツー」に置き換えることによって成立しているという事実を、モールスをやったことのある者は、感覚で理解できるのではないでしょうか。
さらに、英文モールスでは、文章中に出てくる頻度の高いアルファベットほど短い信号が割りついています(e=・, t=−, ...)。これは、情報をいかに短くするか(つまり速く伝えるか)という技術で、FAXやいろいろな情報伝達で使われています。また、インターネット・セキュリティーの基礎技術としての、暗号理論にも通じます。
まあ、笛をピッピッと吹きながら、ここまで考えることも無いでしょうが、指導者の与え方ひとつで、最新のIT技術の一端に触れることもできるモールスは、情報通信の基礎的な考え方を知っておくという意味でも、今こそ役立つ技能になり得ます。 ・・・ −・− (森地)